(初めて会った時も、こんな感じだったな)
昔と変わらない、強く前向きな姿勢を好ましく思いながら、ザックは自分を追い抜き石の階段を踏みしめていくアーシェリアスの背を見守り自らもまた足を進めていった。
そして、ようやく階段が終わる頃。
「もう歩けない……」
アーシェリアスはさっそく後ろ向きな弱音を吐いていた。
しかし、上がったばかりのザックの好感度は降下することなく、アーシェリアスに水筒が渡される。
「最後まで頑張ったじゃないか」
返事もろくにできず、ひたすら肩を上下させ呼吸を繰り返して頷いたアーシェリアスは、すぐ近くにあったベンチに腰を下ろして水筒に口をつけた。
ごくりごくりと喉を鳴らして疲れた身体を潤すと、ようやく周りの景色を見る余裕が出てくる。
シュタイルは崖の町とはよく言ったもので、アーシェリアスの目に映るのは、崖に所狭しとひしめき合う家々だ。
道には、壁を伝うようにカラフルな花が咲き誇り、疲れを癒してくれる。
「ここからは、もう階段はなしなの?」
「宿屋街に行くには階段を上るはずだが、市場や飯屋はこの先に伸びる中心部に並んでる」
「そうなのね」
食料調達は町を出る前で問題ないけれど、宿屋は万が一満室になってしまうと困るため、早めに部屋をとっておかないとならない。
シュタイルにどれくらいの数の宿屋があるのかは不明だが、辺りを見る限りそこそこ人通りがある。
中には旅人っぽい身なりの者もいるので、やはりまずは宿屋に向かおうということになり、アーシェリアスは疲労で力を失いかけている足を必死に動かした。