破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします

──甘く優しい香り。

莉亜が最初に感じたものはそれだった。

一体何の香りなのかと、確かめるためゆっくり瞼を開いた莉亜の目に映ったのは、白い雲が浮かぶ黄色い空だ。


(……何で、黄色いんだろう)


空は水色や灰色、濃紺ではなかっただろうかと考えていると、すぐ近くから口笛の音色が聞こえてきて、莉亜はそっと上体を起こした。

すると、口笛が止んで代わりに「やあ、おはよー」というのんきで爽やかな声がかけられる。

起き上がった莉亜の隣に、片膝を立てて座る青年が微笑んだ。


「お、はよう、ございます……」


そう口にしたのと、青年が誰であるのかを思い出したのは同時だった。


「あなた! さっきの自殺志願者!」


莉亜に指差された青年は、おかしそうにクスクスと肩を揺らす。


「我(われ)は自殺なんて望んでないよー。そなたの勘違い」

「でも、飛び降りたじゃない」

「うむ! そこが入り口だったゆえ」

「……はい?」


青年が何を言っているのか理解できず、加えて話し方に癖があるため、眉間にシワを寄せる莉亜。

そんな莉亜の様子を特に気にした様子もなく、青年はまた口笛を口ずさむ。

マイペースな青年を前に、莉亜は意味がわからないままに辺りを見渡した。