「ザック、お待たせ」


少しと言いながら三十分は離れていたので、待ちくたびれているだろうと申し訳なく思いながら部屋に入ると、ザックは仮眠をとっていたのか閉じていた瞼を開けて起き上がった。

そして、アーシェリアスが持つトレーを期待に満ちた瞳で見つめる。


「おやきか?」

「え?」

「前にくれたパンみたいなやつ」


出会った時のことだと理解したアーシェリアスは、目を瞬かせた。


「違うけど覚えていてくれたの?」

「美味かったからな。また食べたくて色んな店を回ったけど、売ってなかったし、おやきを知ってる者もいなかった」

それはそうだろうと心の中で突っ込んで苦笑するアーシェリアス。


「そんなに気に入ってくれたなんて嬉しいわ」


誰かに為にと頑張って作った料理が、食べた人の心に強く残れたことが。

ザックのおかげでますます旅に出たいという気持ちが強くなっていく。


「残念ながらおやきではないんだけど、良かったら食べてくれる?」

「これは?」

「卵のおじや。お米は食べたことある?」

「米? 何度か」