「お、起きたのね。おはようザック。体調は?」

「少しだるいが特に問題はない。それより、夢じゃなかったのか。アーシェに会えたのは」

「それは出会いの話? それとも、昨日の再会の話?」

「どちらも、かもしれない」


最初の出会いは思い出としては遠くなりつつあった。

しかもたった数分、共に過ごしただけ。

夢だと片付ける可能はあるという意味で、冗談めかして言ったザックにアーシェリアスは小さく笑う。


「どっちも現実よ」


答えた時、ザックのお腹が鳴ってアーシェリアはさらに肩を揺らして笑った。


「ザックのお腹の音も久しぶりね」


そう言って立ち上がると、朝食を作ってくるから少し待っていてと伝え、アーシェリアスは厨房へと向かった。

朝もまだ早い時間だが、厨房ではすでにお抱えのコックが仕込みを始めていて、アーシェリアスに笑顔を見せる。


「おはようございます、お嬢様」

「おはよう、クロード。コンロをひとつ借りてもいい?」

「ええ、どうぞ」


クロードはアーシェリアスが幼い頃から屋敷に務めている男性だ。

物腰は柔らかく口調はのんびりとしているが、調理の手際は非常に良く、アーシェリアスは彼の動きをお手本にしている。