街灯の光を背に受けて、莉亜はまた溜め息を落とす。


「はぁ……死にたい」


騙されたことが情けなくて、愛してしまったことが悔しくて。

涙で滲む瞳で、夜空に煌々と輝く三日月を見上げた時だ。

視界の隅で何かが動いた気配がし、莉亜はなんとなくそちらに視線をやって……仰天した。

橋の手すりに、青年が立っているのだ。

月の光を受ける青年の赤味がかった髪が、夏の夜風に柔らかく揺れる。

莉亜が様子を伺う中、青年の視線が橋の下を流れる川の水面に落ちた。


(えっ、え、え、え? ま、待って。やっぱりそういうつもり? ここから身を投げて世知辛い世の中からおさらばしちゃうやつ!?)


それにしては、青年の瞳に暗さはない。

表情も悲壮感など微塵も感じず、どちらかといえば満足そうに見える。


(もしかして思い残すことは何もない顔じゃないこれ!?)


自分よりいくつか年下に見える青年だ。

ここで命を終わりにせずにいれば、まだまだ「生きていて良かった」と思えることに巡り合えるに違いない。

だから早まってはいけないと莉亜は、缶ビールを乱暴に手すりに置くと青年目掛けて走り出した。


「死んだらダメ!」