「人間は自由であるべきで、私は私だし、私の人生は私のものだもの。悲しいシナリオの犠牲になるなんてまっぴら!」


アーシェリアスの脳裏に浮かぶのは、莉亜としての記憶だ。

騙され、気持ちがどん底まで落ちて。

終いには川にも落ちてその生涯に幕を閉じる羽目になった。

振り回されて終わる人生はもうご免だと、心の中で強く思う。


「自由……か」


少年が心に落とし込むように呟くと、アーシェリアスが大きく頷いた。


「そうよ! 私たちは自由なの!」


段々と選挙か何かの演説じみた口ぶりになり始めた時、グゥゥと聞き覚えのある音がしてアーシェリアスは言葉を止める。

少年が恥ずかしそうにお腹を押さえているのを見て、アーシェリアスは持っていた籠に手を入れた。


「良かったらこれ食べる?」


そうして、ひとつ紙に包まれたおやきを少年に手渡す。


「……これは?」

「私が作った"おやき"」

「おやき?」


少年は首を傾げながらも紙を広げて中を確認する。

出てきたのは表面が黄金色に焼き上がった丸い形のおやきだ。


「パン?」

「小麦粉で作ってるし見た目は似てるけど別物。どちらかといえばおまんじゅうに近いかな」