破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします


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──四角い湯口から、温かな湯が絶えず注がれる。

満天の星空の下、石積みの露天風呂にひとり浸かるアーシェリアスは、先ほどまでに起きた一連のやり取りを回想し疲れ切った息を吐き出した。

あの後、場はさらに混乱を極めた。

エヴァンの叫び声がうるさいと、ザックがエヴァンの腹に肘を撃ち込み、襲う痛みに、股間を隠すより腹を押さえたエヴァンの手。

ハレンチガードから解放されたザックの視界に最初に映ったのは、上半身に何も纏っていないノアの姿。


『すっ、すまな──ん?』


謝罪の言葉が最後まで紡がれなかったのは、目を逸らす瞬間、違和感に気付いたからだ。

その違和感を確認しようとノアを二度見したザックは、瞳を零れんばかりに見開いた。


『お前、男だったのか!』


男である自分と同じく胸の平らなノアが『いやーん、バレた?』と舌を出す。

と、そこでタオルを腰に巻きなおしたエヴァンがノアを見て驚愕により雄たけびをあげたところで、ザックはようやくアーシェリアスの状態に気付いて顔を赤く染めた、のだが。


『いや待て、もしかしてアーシェも男……』

『違うから! 私は女! もう! とりあえずみんな出ていって!』


勘違いされそうになり、アーシェリアスが手近にあった籠を掴んで投げると、ザックはそれをサッと避けた。

代わりに、後ろに立っていたエヴァンが顔面に籠の一撃をもらっていたが、ザックはそれに構わず、悲鳴の原因であるノアの腕を掴んで、問答無用で引っ張り脱衣所から出て行ったのだ。