「坂口、優奈です。今年からここで働かせていただきます。
1年の社会科担当です。初めての職員勤務なので、未熟な点も多々
あると思いますが、よろしくお願いします。」
パチパチとまばらな拍手の中、もう一度椅子を引いて座る。
「では、1年2組の担任お願いします。」
「はい。」
隣の男性が、すっと美しく立ち上がる。
「1年2組の担任をさせていただきます、西崎楓です。」
嘘でしょう、と思った。
驚いて顔をあげると、
そこには過去の面影がある、
彫りの深い端正な顔立ちの男性がいた。
楓だ。
驚く私をよそに、楓は挨拶を続ける。
「坂口さんと同じく、
今年から先生となりました。
皆さんとより良い学校を作っていけたらと
思いますので、
これからよろしくお願いします。」
私の時よりも、少し大きい拍手の中、彼は悠々と座った。
ドクン、ドクンと心臓が跳ねる。
まさか、また会うなんて。
楓は私が彼をずっと見ていることに気付いて、
こちらを向いて軽く会釈をした。
私も慌てて頭も下げる。
楓は、気づいてないんだ。
今なら、叶うかもしれない。
あの時叶わなかった恋が。
楓はクルリと体の向きをかえて、1年3組の担任の
話に耳を傾けていた。


