「朱里ちゃん、今からお見合いだっていうのに、何してるの?」

「え? ああ、そうだった。ごめんなさい」

 接客係の女性も、クスクスと笑っている。

 何してんだろう、私──。

 お見合いを真剣に考えるなんて、やっぱり私には無理。お見合いは手っ取り早く終わらせて、とり天メニューを仕上げなきゃ。

 大きく息を吸い込み背筋を伸ばす。緊張した面持ちで、愛子さんの横に立った。

「失礼いたします」

 個室のふすまが開けられ、小さく頭を下げると部屋の中へと足を踏み入れる。そのままうつむき加減で進み、お見合い相手であろう男性の前に座卓を挟んで座った。

「はじめまして、高坂朱里と申します。本日は、よろしくお願いいたします」

 簡易的な挨拶を終えると、顔にニッコリと笑顔の仮面を貼り付ける。そしてゆっくり顔を上げた。と同時に、頭に何かが落ちてきたような衝撃が走る。

「こちらこそ、はじめまして。ご存知かもしれませんが、プレジールという会社で社長をしております、逢坂真史です」

 その人に、相変わらず笑顔はない。私を見つめ淡々と挨拶をする目の前の男性を見て体は一瞬にして硬直し、驚きから瞬きすらままならない。