「俺に会いたいかと思って待っててやったんだ、少しはありがたいと思え」

 動けないでいる私のもとへ真史さんがやってくる。上から目線でモノを言うのはどうかと思うけれど、待っててくれたのは正直ちょっと嬉しい。

 差し出された手に一瞬手を伸ばそうとして、すぐにその手を引っ込める。どうしたと言わんばかりに眉をひそめる真史さんから、スッと目をそらした。

「私が送ったメール、まだ見てませんよね?」

「メール? ああ、悪い。今日はスマホの電源入れてないんだ。本当だぞ、ほら」

 胸元のポケットからスマホを取り出すと、その画面を私の方へと向ける。

 疑っていたわけではない。でも嫌われたわけじゃなかったんだと、心の中でホッと安堵の吐息を漏らす。

「もしかして、そのことで怒ってるのか?」

 真史さんの表情が、心配なものへと変わる。

「怒ってなんかいません。ただちょっと話がしたいと思ってただけで」

「話? どんな?」

 メールをしたときは玉砕覚悟、自分の今の本当の気持ちを伝えたいと思っていたけれど。いざ真史さんを目の前にして『どんな?』と聞かれると正直困ってしまう。

 どうしようかとまごまごしているうちに手を取られ、あっという間に真史さんの車の助手席乗せられる。「逃げるなよ。逃げたら……」なんて脅迫まがいなことを言われ大人しくしている私に、真史さんは満足げな笑みを見せた。