新店舗が入っている複合施設から最寄り駅まではバス停ふたつ分。いつもはバスに乗るところを、今日はなんとなくそれをやめた。たまには運動するかと、バス停を通り過ぎ駅に向かう。

 でもすぐに甘い考えが浮かび、運動と言っておきながらそれでも近道のほうがいいかと、駅の方向に向かって真っ直ぐだろうと思われる路地へと足を踏み入れた。

 すると少し先にある、黒いスポーツワゴンが目に留まる。はて?どこかで見たことが……と引き寄せられるように近づいていくと、タイミングよくドアが開き中から真史さんが仏頂面で顔を出した。

「な、なんで真史さんがこんなところに……」

 何か悪いことをしたわけでもないのに、体が勝手に強張る。どうしてメールも見ていないのに、こんなところに真史さんがいるのか。その真意がわからない私は、彼を見つめたまま一歩二歩と後ずさった。

「なんで逃げる?」

「い、いや、これは逃げてるんじゃなくて、自然の摂理というかなんというか……」

 とにかく驚きすぎて、どうしていいのかわからなくなってるんです!

 口はパクパク、心臓はドキドキ破裂しそうで、その場に立っているのがやっと。できればしゃがみ込みたいのを、必死に耐えている。