……って私、なんで喜んでるのよ! 真史さんとの関係は今までと変わらない、偽りのままなのに……。

 誤魔化すようにコホンと小さく咳払いすると、顔をキュッと引き締めた。

「話は終わりでいいですか? 私まだ、仕事中ですので」

「ああ、悪かったな。俺これから出張で、五日ほど会社を留守にするから。時間ができれば、また夜にでも電話する。来週の新店舗の研修、頑張れよ」

「はい、ありがとうございます」

 激励は素直に嬉しい。明るく答えると、社長室を出た。秘書課の人たちに見つからないように、足早にエレベーターへと乗り込む。誰にも見つからなかった安堵感から、大きく肩で息を吐いた。

 真史さん、今日から出張なんだ……。

 今の今まで一緒にいたからか、なんとも言いようのない寂しさを感じる。研修指導の日が五日後だから、帰ってくるのは研修と同じ日だろうか。

 すぐにでも会いたい──勝手な気持ちが込み上げる。

 でもその前に、研修指導を順調に進めなくては。

 エレベーターの中の鏡に向かって姿勢を正す。「頑張れ、朱里」と鏡の中自分に呟くと、三階に到着したエレベーターから勢いよく飛び出した。