好きなんていう言葉を、簡単に使ってもらっても困る。真史さんにしてみたらどうってことないセリフでも、恋愛ごとに疎い私は一喜一憂してしまう。

「か、からかわないでください」

「からかう? 俺が?」

 心外だと言いたそうに、真史さんが心持ち眉をしかめた。

「俺は一度だって、からかったつもりはない」

「真史さんはそうかもしれないですけど……」

 偽りの恋なのに、抱きしめたりキスしたり。好き勝手し放題じゃないですか! もっと自覚を持ってください!

 ……なんて言えるわけもなく。そっとため息をつくと、黙り込んだ。

「なんだ。言いたいことがあるなら、黙ってないで言えばいいだろう」

「いえ、もういいです」

「なんだ、もういいって。怒ってるのか?」

 半ば諦め気味に俯いたのを怒っていると勘違いしたのか、真史さんが私の髪を梳く。その手が優しすぎて、何もかもがどうでもよくなってしまった。

「何も怒ってないです。私の気にしすぎですね、すみません」

「まあ謝ることはないが、わかったならいい」

 どこまでも上目線だけど、とりあえずは一段落。

 三浦さんのこととか偽装恋愛のこととか、まだよくわからないことばかりだけど。今のところ、私と真史さんの関係は変わりなし……と言ったところか。

 よかった──自然と心が躍りだす。