「朱里?」
「そんな優しい声で、朱里なんて呼ばないでください。どうして彼女が、三浦さんがいるのに、私と偽装恋愛しようなんて言ったんですか?」
睨みつけるように真史さんを見上げると、目から涙が溢れ出す。真史さんは私の口から飛び出したまさかの言葉に驚いたのか、目を大きく見開いた。
「……三浦って、麗華のことを言っているのか? どうして朱里が、あいつのことを知っている?」
麗華……。
その名前があまりにも自然に出たことに、愕然と立ち尽くす。
真史さんは社長で秘書のことを知っているのは当然。でも『麗華』と名前を呼び捨てにするのは、ふたりが上司と部下の関係だけではないということだろう。
わかっていたことなのに、ショックは隠しきれない。
こんなことしても無駄とわかって、真史さんを拒否しようと胸に手を押し当てた。でも案の定、その手は容易に取られてしまう。
「まだ話は終わってないんだ、離すわけないだろう」
まっすぐ私の目を見つめる真史さんに首を振る。
「終わってます。三浦さんから、真史さんとは冷戦中だけど今も愛し合ってるって聞きました。あんな素敵な彼女がいるのに、私なんかとこんなことしてたらダメじゃないですか。ホント困るんです、こういうことは……」


