そんな目で見ないで──。
自分が考えたメニューが採用されというのに嬉しさはどこかに消え去り、怒りと悲しみが押し寄せる。
「高坂さん、やりましたね」
市ノ瀬くんが嬉しそうに声をかけてくれても、返事をすることができない。
「高坂さん?」
心配そうに私の顔を覗き込もうとする市ノ瀬くんの体を、顔を見ないままグッと押しのけた。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。先に片付け始めてて」
そう言って口元を押さえると、試食会が終わり部屋から出ていく人たちの合間を縫うように廊下へ飛び出した。
ここから一番近いトイレじゃ誰に会うかもわからない。咄嗟にそう判断した私は、普段あまり使われていない研究棟二階の奥にあるトイレへと向かう。三階から階段を降り角を曲がると、少し先に人影があるのに気づいて足を止めた。
「朱里」
会社で私のことを『朱里』と呼ぶのは、ひとりしかいない。
嘘でしょ──。
一歩ずつ近づいてくるその声の主は、思ったとおり真史さんだった。
私が部屋を飛び出したとき、真史さんはまだ中にいた。それなのに、なんで今ここに真史さんがいるの? まさか瞬間移動でもしたとか?


