「慣れないとか……よくわかりません」

「意識しすぎだろ?」

にやりと口角を上げた真史さんが、私の頭を小さな子供をあやすようにポンポンと撫でた。

いやいや、意識するなって方が無理でしょ。私は真史さんと違って、恋愛初心者なんだから……。

口を尖らせると、上目遣いに真史さんを軽く睨みつけた。

「悪い、朝から意地悪がすぎたな。仕事の前に朱里の顔が見たかった、ただそれだけだ」

「え?」

やんわりと抱きしめられて、真史さんの腕の中にすっぽりと収まる。頭の中は『朱里の顔が見たかった』と言った、真史さんの声ばかりリフレインしていた。



一時間後に迫っている試食会の準備を終え、開発事業部へと戻る。

「高坂さん。お昼、どうしますか?」

後ろを歩いていた市ノ瀬くんの声に、足を止め振り返った。

「う~ん、どうしようかな。試食会のことが気になって、あまりお腹減ってないんだよね」

今日の試食会は、絶対うまくいく──。