「また会社で。月曜日の最後の試食会、楽しみにしてるからな」

「はい、任せてください。じゃあ、また会社で」

 荷物を持ち直し車から降りると、サイドガラスが下がった。

「今日は疲れただろう、早く寝ろよ。おやすみ」

「おやすみなさい」

 サイドガラスが、名残惜しそうに閉まる。

 私に向かって左手を上げると、真史さんは車を走らせた。

 小さくなっていく車を見ながら、ふとさっき言われた言葉を頭の中で復唱した。

『朱里は俺の彼女だから──』

 この言葉も、偽装恋愛のための恋愛指南……ということなんだろうか。

 今日一日のことを思い出す。握られた手、触れられた頬、重なった唇。どの感触を思い出しても、胸が痺れるように苦しい。

 真史さん。あんな真剣な目で『俺の彼女』なんて言うと、私、勘違いしますよ。

 真史さんの車のテールランプを見送りながら、心の中でそう呟いた。