「ま、真史さん!?」

「しばらく、このままでいさせてくれ」

 真史さんは私の首元に顔を埋めると、深い呼吸を繰り返す。その度に彼の唇が首筋に触れて、くすぐったいような痺れるような、不思議な感覚に襲われる。さっきまでの憤った気持ちはどこかに消え去り、ずっとこのまま抱きしめていてほしい──なんて邪な気持ちが現れるから、自分で自分が手に負えない。

「真史さん、家の前なのでそろそろ……」

 気持ちはどうであれ、いつまでもこのままじゃいけないと、やんわり伝えてみる。

「ああ、わかってる」

 真史さんはそう言うが、なかなか離そうとしてくれない。これは私から動かないといけない?と体をもそもそ動かすと、「はあ~」ため息をついた真史さんはゆっくり体を離した。静かに視線が絡まると、真史さんの腕が伸びてきて私の頬に軽く触れた。

「朱里は俺の彼女だから」

 頬に手を当てられ、甘くでも真剣な瞳で見つめられているからか、言葉は呪文のように私の耳に届く。真史さんの魔法にかかってしまった私は、自ずと小さく頷いた。その反応に満足気に微笑むと、真史さんは頬に当てていた手をスッと離す。