ゆっくり食事をとった後は、近くにある市場に足を運んだ。家族にお土産でもと一軒一軒見て回るが、新鮮な魚介類を見ていると、ついつい仕事モードにスイッチが入ってしまう。
「この魚、煮付けにすると美味しそう。御膳の新メニューにいいかも……」
店の店員に魚の特徴や料理方法を聞きながら、ひとり頭の中で調理に集中。味付けは濃いほうが合う? 煮付けじゃなくて塩焼きもいいんじゃない? なんて頭の中には、次から次へと料理が出来上がっていく。
試食会で社長に出したら、一発オッケー出ないかしら。
真史さんの顔が目に浮かび──ハッと、真史さんの存在を忘れていたことに気づく。少し腰を曲げて屈んでいた姿勢を正し、恐る恐る後ろを振り返った。
きっと怒ってるよね。
そう思いながら顔を上げたが、真史さんの顔は至って普通。穏やかな表情で私を見てるから拍子抜けだ。
「すみませんでした。美味しそうな魚みたら、つい料理に没頭しちゃって」
「料理に没頭って。朱里は本当に面白いな。一度、頭の中を見てみたいものだ」
真史さんは頬杖をつくと、物柔らかな目で私を見つめる。戸惑う私は、目の行き場をなくしてしまう。


