「そう、深く考えるな。ここは恋人たちの聖地なんだろ。自分の気持ちに素直になるための、大切な場所なんだ」

 また意味のわからないことを……。

「だから、ここはですね……ってもう、わかりました。真史さんの好きにすればいいですよ。でも偽装が偽装じゃなくなったら、ちゃんと責任とってもらいますからね」

 なーんて。いくら恋愛成就の可能性が高いと言っても、100%完璧じゃない。真史さんと私が上手く確率はきっと──ゼロに等しい。悲しいものだ。

 そんな私の気持ちなんて露知らず、真史さんは南京錠をササッと付けてしまう。カチャッと音が聞こえ、鍵がしっかり掛かったことを伝えてくれた。

 もはや後戻りできない。こうなったら、トコトン付き合おうじゃないの!

 ゆっくり歩き出した真史さんの後に続き、まるでヴァージンロードのように赤く染められた通路を進むと、鐘の前にふたりで並ぶ。手を取り合い鐘から下がる紐を掴むと、それをふたり同時に引いた。

 朝の爽やかな空気の中、鐘の音がカランカランと響き渡る。この音が天まで届き、私と真史さんの間に本当の絆を運んできてくれるといいのだけれど……。

 そう心の中で願うと今まで聞こえなかった波の音が、優しく耳に届いた。