「もう、そうじゃなくて・・・困った人ね」
言葉とは裏腹に、甘い声でそういう圭奈の額に口付けをする。
『困ったと良いながら、毎回俺の我がままに付き合ってくれるんですよね』
物心ついてから、自分の素性が分かっても、変わらず自分の心配をしてくれるのは、前野位だった。
『本当に、あの偶然の出会いが無ければ、今も寂しいと言う気持ちに気付かなかった』
前から圭奈の事は知っていたが、知っていた程度だった。
それが、あの日忙しさの所為で熱が出てしまい、それに気付かず琥珀に来てしまった。
アルコールが入ると一気に意識が混濁して、どうする事も出来なくなった。
そんな時、圭奈とマスターが声をかけてくれた。
最初は何か裏が有るのではと思ったが、自宅まで送り届けてくれた圭奈は、手当をしたら直ぐに帰ってしまい、その後全く連絡が来なかった。
「ご飯食べる?」
物思いに耽っていた置鮎を、圭奈の一言が現実に引き戻す。

