『ヤバイ・・飲みすぎたわ』
何時もならカクテル3杯で酔うことなど無いのに、疲れが溜まっているからか、酔いが回ってきた。
『帰れなくなる前に、会計しないと』
そう思い、マスターに声をかけようとした時、入り口の扉が開いた。
「いらっしゃい。置鮎君。良かったね。やっと合えたよ」
マスターの声に扉の方を向くと、柔らかい髪を後ろに流し、涼しげな顔に銀のフレームが良く似合った置鮎が立っていた。
何時もと同じ、上質な生地のスーツを着こなし、高そうな革靴でこちらに向って歩いてくる。
「こんばんは」
今までこんな風に挨拶をした事が無かった沢城は、驚きに一瞬動きを止めた。
「あ、え・・と、こんばんは。あの後大丈夫でした?」
動揺の為、何とも間の抜けた会話になり恥ずかしくなる。
「はい、沢城さんのお陰で直ぐに良くなりました。隣、良いですか?」
「え、あ、はい・・」
思わず同意してから自分が帰ろうとして居た事に気付いたが、帰るタイミングを逃してしまった。

