勢い良く扉を開けると、少し驚いたような顔のマスターがこちらを見た。
「いらっしゃい。久しぶり」
直ぐにいつもの柔和な笑顔を湛えて迎え入れてくれたので、何時もの席に座る。
『今日は居ないのか』
壁際をチラリと見て落胆する。
「残念だったね。置鮎君今日は来てないよ」
「え。いや、残念だ何て・・そんな」
図星だけに慌ててしまう。
「置鮎君、君にお礼がしたいって、結構頻繁に通ってくれてたんだけどね」
ギムレットを差し出しながらチラリと置鮎が何時も座る席を見る。
「お礼だなんてそんな・・・対した事してないのに」
ただ家まで送って行っただけで、そんなに感謝される事はないのにと思った。

