文庫本に向けられていた顔を上げて前を見ると、テーブルを挟んで正面に黒髪の少年が座っていた。


白いシャツでテーブルに膝をつき、二重のくっきりとした瞼で綾を見ている。


「あ…」


駅の改札にいた少年だ。


いつの間に部屋に入ってきたんだろう。


そう思ったけど、綾は声を出せなかった。人と話すこと…特に同級生の男子と話すのが綾は苦手だ。


「その本、図書館のじゃないよね。ラベルついてないもん」


少年が綾の本を指差した。


綾は思わず表紙を隠すと、カバンにしまい込む。


「なんで隠すの?」


バカにされる…反射的に綾はそう思ってしまうクセがあった。