「いいよ、私のなんて…」


境内に続く石段の最後の一段を降りようとすると、リョウが手を差し出した。


綾がもう一度恐る恐る手を伸ばすと、リョウはやっぱりなんの躊躇もせずに綾の手をとった。


「明日も同じ時間?」


「うん…」


「自習室で待ってるね」


そういうとリョウは白い歯を見せて笑うと、「またね」と手を振って鳥居に向かって走って行った。


階段の前で振り向くと、


「すげー楽しかったね」


と綾に向かって叫ぶと、階段を駆け下りてすぐにその姿は見えなくなった。


蝉の鳴き声がこだまする境内で、綾はしばらく立ち尽くす。


リョウは私のこと、バカにしなかった。
クラスの男子とはちょっと違うのかもしれない。


そう思って、慌てて綾は首を振った。油断しちゃいけない。
人なんて信用できないんだから。


アイスティーのペットボトルをショルダーバッグから取り出して、少し考えたけどそっと口をつけて一口飲んでみる。


紅茶の香りが口に広がって、同時に綾の胸の奥にクスクスとした温かい気持ちが広がった。