田舎町に来て最初のお夕飯はカツ丼とお刺身だった。

他にもポテトサラダや筑前煮やおかずがテーブルに並ぶ。

恒夫叔父さんはビールを飲みながら「姪が来るのもいいもんだな」と言った。


「普段はこんな豪華なご飯出てこないんだから」


綾はこういう時、なんと返していいのかわからない。
斜め下を向いて会釈する。


夕飯が終わると、2階の部屋に恒夫が折りたたみ式の小さなガラステーブルを持ってきてくれた。


「勉強したかったらこれを使いなさい」


8畳のタンスしかない広々とした部屋の隅にテーブルを置くと、綾は大学ノートを広げた。


新作はやっぱり恋愛モノにしよう。


綾は横谷のことを思い出して嫌な気分が蘇る。


でも、恋愛小説の主人公って大概最初の出会いは印象が悪いんだよね。


「絶対ラブ」も、主人公と先輩が初めて屋上で出会った時はケンカから始まった。


そんなことを考えながら、綾はノートにシャープペンシルでプロットを書いていく。


窓の外からはカエルや虫の鳴き声が心地よく聞こえた。