「もう……。おやすみ、宙斗くん」

 眠っている彼に声をかけると、まるで返事をするように「ん」と声を漏らす。それにクスリと笑ってしまう私は、相当肝が据わっているらしい。

 観念して目を閉じると、強い睡魔に襲われる。しだいに宙斗くんの温もりと規則正しい鼓動の音に誘われて、いつの間にか私も眠ってしまうのだった。

 翌朝、髪を撫でられる感覚で目が覚めた。パチッと目を開けると、宙斗くんの顔が視界を占領する。

「わっ、宙斗くん!」

「お、おはよ……」

 私が起きたことに驚いたのか、宙斗くんは微笑んでいた唇をすぐさま引き結んで無表情を作ろうとしている。けれど頬は緩みっぱなしで、無理していることはあきらかだった。

「ふふっ、おはよう」

 その姿がなんだか可愛くて、私は堪えきれずに笑ってしまう。そんな私を宙斗くんは咎めるように睨んだ。

「笑うなよ……」

「だって、宙斗くんが必死で面白いんだもん」

「なんで、お前は余裕そうなんだよ」

「さぁ? 私より慌ててる人がいるからかな、目の前に」

「このやろう……。これはもう、おしおきだな」

 そう言って宙斗くんの手が伸びてくると、私の額を指で強く弾く。強烈な痛みがオデコに走った。

「いっ、いったーい!」