私はどうしたらいかわからなくなって、優成から離れて勢いよくエスカレーターを駆け上がった。

視界に、2階のフロアが広がった瞬間、私が走る数メートル先を、同じ年くらいの男が走っている後姿が目に飛び込んできた。

耳に叫び声が飛び込んできた。

「ひったくり!捕まえて!」

目の前を逃げていく男はヴィトンのモノグラムのバッグを抱えている。

私は勢いづいたまま走り続けた。

「そいつ!そいつ!早く捕まえて」

女の子の声が私の後ろを追いかけてくる。

男に追いついて、私はレシープのポーズで滑り、男の足首を掴んだ。

男はバランスを失って前のめりに倒れた。

ヴィトンのバッグが手から宙を飛んで、化粧品やピンク色の携帯電話が床に転がった。

男を羽交い絞めにしておさえたのは、追いかけてきた優成だった。

私はバッグを拾い、息を切らして追いかけてきた女の子に渡した。

「大事なもの、ちゃんと入ってますか?」

気持ちが張り詰めていたせいで、私の声は怒ったようになった。

彼女はバッグの中身を確認してうなずくと、無事に戻った荷物を抱きしめて大きく息をついた。


ガードマンが数人集まり、一気に人だかりができた。


人だかりは少しずつ、私と優成に気付いてざわめいた。