ひそかに本名で書き続けているファンレターは、蒼に覚えてもらえるようにいつも同じ封筒に入れている。

「見覚えありますか」

蒼は驚いた表情で私を見つめた。

「かーやちゃんの親友だったんだ、この、華ちゃんて子」

私はうなずいて見せて、また目をそらしてしまった。



「ファンレターで、やられちゃったわけ?」

優成がからうように言った。

「ちょっと、この子のことは教えませんよ。僕のお気に入りなんですから」
「見せろ」
「だめです」

二人は楽屋中を走り回った。そのうち床に寝転がってプロレスみたいになった。

そのころには私も思わず声を上げて笑っていた。




「僕のお気に入り」

その言葉が私の心をあったかく包んだ。

一人の私はその喜びに溶けそうになっていた。


一方で、ファンレターの主を「親友」と偽ったことが後ろめたかった。

もう一人の私は、きりきりと胸が痛んでいた。