2週間後の週末に若手だけの飲み会は開催された。
店前集合とのことで、ならは少し緊張を覚えながら向かう。
2度ほど行ったことのある店だったので、場所には自信があったが、仕事でしか会ったことのない面々とどんな話をするのか、盛り上がるのか、今さら不安になってきた。

突然肩をポンポンと叩かれた。

「おい」

振り向くと笹崎がいた。

「店どっちか分かる?」
「あ、え、おはよう。」
「いや、この時間にしておはようって業界人か。店どっちか分かるって聞いてんの。」
「あ、うん・・・」

ならは笹崎の登場に少し安心する。

この2週間でならと笹崎はかなり会話することが増え、バイト仲間にしては友達のような感覚にまでなっていた。
とはいえ、プライベートで会うのはこれが初めてだ。

「門野さん、あれだね、髪下ろしてんの珍しい。」
「いや、バイトの間だけだよ、結んでるの。」
「ふーん、いいね、俺こっちの方が好きだわ。」

笹崎の軽い褒め言葉に一瞬ドキッとする。

「かるーい。」
「そう、よく言われる。なんでだろうね、本音で言ってるのにね。俺こっちの方が好きだわ。」
「かるーい。」

2人は笑い合いながら店に向かった。

集合時間の5分前には着いたが、もう既に店の前には半数以上の職員が待っていた。
2人を最初に見つけた矢幡さんが声をかける。

「一緒に来たの?」

その一言で他の職員も2人に気付く。

「うわ、笹崎さんすでに門野さんのこと狙ってるでしょ。」
「若いなー、間に入れないよねえ、アラサーは。」

みんなが口々に言う。

「はい、狙ってるんで入ってこないでください。」

笹崎が笑いながら返す。
ならは一瞬真に受けたものの、みんながドッと笑ったことで冗談だと気付いた。

席は掘りごたつになっていて、ならと笹崎は今日の主役ということで中央に座らされた。

仕事中の顔しか見たことのない人たちがリラックスして盛り上がっているのを珍しいものを見るような目で眺めていると、隣から笹崎が肘でならの身体を突いてきた。

「彼氏いる?」

一瞬なんと言ったのか聞き取れなかった。

「え?」
「彼氏いる?」

笹崎が少し声のボリュームを上げて聞く。

「いないけど・・・」
「いない?」
「いない。」
「本当に?」
「うん、なんで。」

次の瞬間、笹崎がジッとならの目を見つめる。

「狙ってもいいのかなと思って。」