あれ。

雷様の視線の先を追う。
どうやら里佳子も同じだったようだ。

「あれ?女?」

冷やし中華の人混みが散らばり掛けた隙間から、少し身長の低い女が見えた。
雷様は笑いながらその女に話しかける。

「誰だろ。」
「誰だろ。」

ならと里佳子は二人の様子を遠くから伺う。
二人は楽しそうに笑い合いながら広い食堂の中でも窓際の空いている席へと向かっていく。
他に誰かと一緒という気配はない。

「二人でご飯かな。」

里佳子が勘ぐるように言うが、ならは言葉が出ない。

「雷様ってそもそも彼女いないと思い込んでたけど、知らなかっただけか。」

里佳子の何気ない言葉がならの心に重くのしかかった。
知らなかっただけか。
そう、ならは何も知らなかった。

「ただの女友達かもしれないし、ね!ほら、座って。」

里佳子は明るく切り替えたが、ならは呆然としたままだった。
せっかくの冷やし中華の味も全くしなかった。