すぐに峯岸がパッと手を離した。

「ごめん、女性に対する免疫なさ過ぎて、めっちゃ反応しちゃった。うーっわ、はっず!」
「なにそれ、嘘でしょ。」
「いやいやいや、こんな生活で基本引きこもってるから、もう全然・・・。」
「だって彼女・・・」
「ん?」

ならはつい口から彼女というワードを出してしまった。

「彼女とか・・・いるんじゃないかなーと。」

峯岸も少し驚いた表情をした後、土の方に目をやって作業しながら答えた。

「いないんだよね、それが。まー、3年くらい。」

3年・・・とっくに別れてたんだ。
ならは学食の彼女を思い出す。

「和東学院の英文科の女の子。」

そう言ってチラッとならの方を見て笑った。

「CAになりたいーとか言ってたな。今頃何やってんだろうなー。」
「なんで別れたの?」

思わずならは聞いてしまう。

「ちょうどうちは離婚したばっかで、この窯元の後継の話があって、大学辞めて陶芸学んだ方がいいかなーと思ってたんだよね。一方彼女は『留学だーサークルだー』って大学生活を満喫しててさ、お互いに溝というか距離?感じちゃって。最終的にどちらともなく『別れよ』って。」

そうだったんだ。
意外とあっさり別れてたようだ。

「俺にとっては眩しく見えちゃったなー。・・・はい、こんなもんかな。薄いでしょ。」

ならはハッとして手元の土に目をやる。
とても綺麗に伸ばされていた。

作業を進めながら、会話が自然と展開していく。

「ならちゃんは?」

峯岸がならを見て聞いてきた。

「彼氏、いないの?」

ドキッとする。

「いないよ。」
「へえー、いつから?」
「大学3年の時、ちょっと付き合ったりもしたけど全然長続きしなくて。」
「なんで別れちゃうの?」

ふと、言っていいのか止まってしまう。

私に好きな人がいたから。

それがまさか自分のことだとは思わないだろう。

「最初は『いいかな』って思うんだけど、付き合っていくうちに『好きじゃないかも』って気付いちゃう。」

ならがそう答えると、「あ〜」と頷きながら峯岸が言った。

「本当に誰かを好きになったことがないとか?好きって何なんだ、みたいな。」

どう?と言った様子でならに振る。

「好きになったことくらいあるよ。忘れられなかったんだよねー。」

自分で言ってから、しまった、と思った。
が、峯岸本人は「そっちかー」と軽い反応を示しただけだ。

「今は?今もまだその人のこと忘れられてないの?」

峯岸が直球を投げてきた。

「今・・・今は・・・」

今は、私はどうなんだろう。

「動き始めてる、かもしれない。」

自然と口からそう溢れてきた。

「おっ、やったじゃん。いやー、良かったね。」

峯岸は、まさか自分のことだとは思ってもいない様子で答えた。