スマホのバイブが鳴った。

「今週末ひま?」

笹崎からだ。

今のならには気が進まなかった。

やっぱりかっこよかったなー、雷様。

峯岸の姿を思い出しては噛みしめる。

峯岸は雲の上の人なんだろうか。
私が頑張っても無理なんだろうか。

ベッドで転がりながらスマホをいじる。

「ひまだよ」と打つものの送信する気になれない。

笹崎のこと嫌いじゃないし、楽しいんだけどな。

「ごめん、用事ある」

ならはそれだけ打って送り返した。


翌日バイトに行くと、菅原さんがみんなに向かって言ってきた。

「今週末、中央公園で開催される『青空マルシェ』で、少しだけ峯岸くんの工房でも出品するそうです。峯岸くんの作品も、お兄さんの作品も数点並ぶそうなので、もし興味のある方は是非〜とのことでした〜」

みんなが「はーい」や「へえ〜」と適当に返すなか、ならは真剣に頭の中にメモをした。


「ねえ、いつならひまなの。」

廊下のトイレ前でならのことを見つけた笹崎が唐突に声をかけてきた。

誰もいないからって堂々とし過ぎている。

基本的にいつだって暇だが、そう質問されると答えにくい。

何も答えないならを見て、笹崎は重ねて質問してきた。

「俺から誘われるのやだ?」
「別に嫌じゃないけど。」

別に嫌じゃないけど、なんなんだろう。

峯岸がならの前に現れてから、笹崎に対して態度が変わってしまったのは明らかだった。
しかし、笹崎がそのキッカケに気付くはずがない。

「俺の中ではかなり近づけたと思ってたんだけど、門野さんの中ではまだだったんだね。」

ならは何も答えられない。

「押してダメなら引いてみろっていうけど、俺全然引けないんだよなー」

笹崎はならとの会話を諦めるように、大きな独り言だけを残して、2階へと階段を登っていった。

その会話以降、笹崎から話しかけられることはなかった。