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「こはる………って何してんだ?」

掃除が一段落ついた頃、清貴さんがキッチンにやってきた。

「見てわかりませんか?」

「いや、わかるけど」

「本日お供えした油揚げとお米でおいなりさんをと思いまして」

まさか掃除用に買ってきた酢がここで役立つとは。
シンプルなすし飯を作って、ちょうど油揚げに詰めている最中なのである。


清貴さんは、まじまじと見つめて
「………お前も作れんだな」と。

「普通はつくれるんじゃないですか?」

「俺の母親は作らんぞ」

そして出来上がっているおいなりさんを、一つ摘まみ上げて頬張っている。
食べるのか…と少し驚いた。

「懐かしいな………昔、ばあちゃんがよく作ってくれた」

「そうなんですね」

「一日と十五日はいなりの日だった」

てことは、ちゃんとおばあさんはお稲荷さまを大切にしていたみたいだ。