「確かにお前だと遠慮もいらんし、トラブルは起こしそうにないな」

………まぁ、そりゃそうなんですが。


「いや、さすがに……」
「新嘗祭(にいなめさい)は免除だよ?」


そう言われると「ぬぬ…」っとほんの少し心が揺れる。
新嘗祭とは。
勤労感謝の日に全国の神社で行われる、『収穫祭』みたいなもの。
初穂を供え、秋の収穫を神に感謝する祭り。大体全国の神社どこでもやっている。
収穫祭なのでお供え物の準備もそうだが……めんどくさいのは、『その後』の氏子が集まった宴会である。



「時松、給料代りに日曜は何でも好きなの食っていいぞ。俺が金出すから」

「それはフレンチやら鉄板焼とか…」

「何なら和牛の最高ランク食わしてやろうか? 」


私の中で‐特大の和牛ステーキが頭に現れた。

「おねがい!します!!」

と反射的にでたものの…十秒後には我に返った。
いや、本当に大丈夫なのか……?


「よし、交渉成立」
社長はふっと嫌らしく笑うと、私の頭に手を置いた。
そして頭をわしゃわしゃ撫でて‐こう言った。


「よろしく、こはる」



それはこの人から…随分久しぶりに聞いた、私を呼ぶ名前だった。