「そんなに……俺と結婚するのは嫌か?」

さらに顔が迫ってきて……唇同士が触れそうな距離まで迫る。
あと五センチ……二センチ………


『ビビビビビビビビ!!』


唇が触れようとしたその瞬間‐けたたましく私の携帯が鳴る。
私は一瞬にして正気に戻り、清貴さんを突き飛ばしてバッグに走っていく。ひったくるように携帯を取り出すと、発信元は夕湖ちゃんであった。


「もしもし?」
慌てて電話を取るが‐さっきの余韻で心臓がバクバク鳴りっぱなしだ。
このまま行っていたら………私は清貴さんと……


「あのねこはるちゃん………」

次に発せられた言葉に‐一気に青ざめていく。
心臓の音が、どんどんと……遠くなる。


「すいません!戻ります!!」

私は電話を切ると‐そのままバッグだけを持って一目散に家を飛び出す。



そんな……あるはずがない。
信じたくない、絶対に。そんなわけはない。


まだ雨が激しく降る中‐『大丈夫だ』そう言い聞かせて、駅まで全力失踪で走って行った。