稲荷と神の縁結び

「………今は、そうでもない、ですよ」

だって今は…あの頃の影なんか一つも見当たらない。
いつも私に笑顔を見せていた彼は、今は眉間に皺を寄せて…私を徹底的に追い詰める。
まぁ私にもプライドというものも僅かながら存在はしていたが、日々消耗しズタズタに切り裂かれていく。


‐もしも『あの日』、何かが違っていれば……

たまにだけれど、そう思うこともある。
そしたら……何かが違っていたのかも知れないと。

ただ私には、あの日違う言葉を選ぶほどの語彙力はないので…結局は同じことになってしまうという諦めもある。


言葉が詰まる私に、馨様は大きなため息をついた。


「今の清貴を見ているとね、昔の清を思い出すんだ」

「清様を?」

「清もね、滋子君に負けまいと仕事に没頭した日々があったのだよ。そんな父親を忌み嫌っていた筈だけれどね。清もまた、そんな私を好きでは無かった筈なんだけれど」

そう言ってもう一度、大きなため息をついている。