どうやら知り合いらしく、店員さんと仲良さそうに喋る馨様。せっかくなのでと、店内でできたての最中を二人でいただくことになった。


「あれ、何かこれ……?」
私は口に入れた瞬間‐不思議な感覚に包まれた。

「そう、君もこの味に覚えはあるだろう?」


そりゃそうだ。
あのさっきまで横目で見ていた、行列ができる和菓子屋と味が瓜二つなのだから。

「ここの職人はね、あそこから独立した人なんだよ」

「そうなんですね!全く知りませんでした……」

「当たり前だよ。元々は卸していた料亭やらホテルの要望に答えるために独立した人で、宣伝を一切していないんだ。
この一般に向けての販売は、片手間って所だよ、ね?」

「そうだとも。いいね馨さん、若い子と二人で」

そう言いながら、暖簾の奥から男性が現れた。白衣に白い帽子の職人さんだ。

「まぁ、冥土の土産といったところかな。君の最中も最後かもなぁ。食べられるのは」

「そんな寂しいこと言わないでください、ね」

「大丈夫ですよ、私がお届けしますから」
私がそう言うと、馨様は目を細めて‐あの清貴さんとそっくりな表情で頷いていた。