首をブルブル震わせる私を、馨様はクスリと笑いながら見ている。

「でも清貴が聞いたら怒るだろうねぇー。君の初ドライブデートが、私とは」

「まぁ…私はさておき、馨様との最後のドライブが私だと、馨様を大大大好きな清貴さんは怒りますよ、ね……」

そう言った所で‐清貴さんのことが脳裏に浮かんだ。


社長となり、随分と変わってしまった清貴さん。
社長としては満点であろうが…私はもう、あの人と笑顔で会話をすることは無いのだろうか。ただの『永江清貴』という人物として接する機会は無いのだろうか。
彼の立場を考えると、致し方ないことではあるが…あの日々のことを思うと、チクりと何かが音を立てる。


そんな表情が曇る私に、馨様は優しい微笑みを崩さない。

「今日のことは、二人だけの秘密にしておこうか。ただでさえ、清貴に運転すると言うと『ポルシェを棺桶にする気か!』ってしこたま叱られてしまったしね…」

「ははは、では二人だけの秘密ですね」

「それに、今から行く店もなるべく秘密にしておいて欲しいんだ。店の主人が、宣伝を嫌がっているから」

「はい、わかりました!」

そして馨様は、新しくできた和菓子屋さんへ連れて行ってくれた。