私は反対側に回り、ポルシェの助手席に乗り込んだ。
シートベルトを閉めると、カチャカチャとクラッチが音を鳴らし車は進んでいく。その流暢に操作する様子は、今年八十歳にもなる人物だとは到底思えない程だ。


「時松さん、滋子君がよく君の話をしているよ」

「ええ?そうなんですか………?」

「食べっぷりが素晴らしいと絶賛していたよ」

滋子様…何を話しているんだ。
私は恥ずかしくなり、顔が一気に赤くなる。


「そんな君にぴったりな、和菓子屋さんに連れて行こうと思うんだけど、どうだい?最中が旨いんだよ」

「ええ!是非ともお願いします!」

そう言うと、馨様は目を細めて微笑んでいた。
その表情は‐やっぱり清貴さんにそっくりであった。

五十年後、彼はこんな姿になっているのだろうか…なんて。



「何だい?」
横顔に見とれていると、私をチラッと見て不思議そうに問いかけた。

「いえ………社長…清貴さんに、随分と似ているなと思ってました」

「ははは、君は清貴とのデートの方が良かったかな?」

「いえ!決してそんなことは!!」