2杯目のビールが届く頃、話題は彼女の近況報告になっていた。
「同棲ってどんな感じ?」
次のインタビュアーは私の番。
こちら側の方が自分には合っていると思う。
「慣れるまでにちょっと時間がかかったけど、意外と楽しいよ。まだ始めて1ヶ月だけどねー。
生活リズムが整うと言うか、ちゃんと家事もするようになったし」
一人暮らしの時、冷蔵庫に飲み物しか入っていなかったことを知っているこちらとしては衝撃の発言だった。
「あずさが料理してるの?!」
「そう。びっくりするでしょ」
本人はおかしそうに笑っているけど、こちらは驚きの方が大きかった。
「すごいなー。確かに、彼氏さんしっかりしてそうだったもんね」
あずさの彼には以前一度だけ会ったことがあった。
年上の彼氏で、高校の教員をしてると言われて納得する堅実そうな印象の人だった。
アクティブな彼女だけど、男性のタイプは彼女と真逆な人を選ぶんだなと思ったのを覚えている。
「お互い仕事してるから、余裕がある方がやる感じだけどね。
私の適当さに呆れられるかと思ったけど、意外と寛容に許してくれて助かってる」
「あずさもあずさでマイペースだもんね」
「そうね。活発な学生と毎日関わってるから私なんて大人しい方なのかも」
「いや、それはないんじゃない?」
すかさずツッコミを入れると2人して吹き出した。
雅也くんもそうだけど、同い年の友達と話していると自然と学生時代に戻った心地がする。
「ひどいなー」
「ごめんごめん。
変な話なんだけど、結婚の話になったりしないの?」
付き合い始めて1年以上経つし、同棲も始めたならそろそろそんな話が出てもおかしくないだろう。
「結婚を前提に同棲しようって話ではあるよ。あと半年で付き合って2年になるから、そこまで何事もなく続いてたらって条件だけど」
「やっぱりそうなんだ〜。すごいな。着実に人生の階段登ってるじゃん」
自分とのギャップに思わずため息が出てしまった。
「どうなるかわからないけどね」
あずさが恥ずかしそうに大きく顔の前で手を振った。彼女が照れた時の癖なのは知っている。
一緒にいると楽しいからという理由で付き合ってる私には、結婚なんてまだ全然考えられなかった。
ましてや既婚者と恋愛ごっこをしていたこちらとしては、結婚に対して憧れも何もなかった。
学生時代の彼女と結婚して子供もいて、世間一般的に見れば幸せそうな人でさえ、何か物足りなさを抱えて生きているのを知っていたら、一瞬でもときめいたり女性として満たしてくれる人さえいれば十分だと内心思っているんだから、達観した自分からはなかなか卒業できそうにないな。
「また進展あったら教えてね」
「もちろん。透子も、惚気でも愚痴でも話聞くよ」
「ありがと。頼りになります」
目の前にいる親友ほど真っ当には生きられそうにないけど、それを悟られないように極力明るく振る舞った。


