「そうなんだ。
あのルックスだし仕事もできるしモテてもおかしくないのに、職場だと全然女っ気ないからさー。事務の女の子にも全然興味なさそうだし。デートしてるとことか全然想像つかない。
だから友達紹介するって流れになった時びっくりしたんだよね」

「そしたらなんでそんな話になったの?」

自分の知らない彼氏の話を聞くというのは何故かドキドキしてしまう。
心構えができなくて、勢いよくビールを飲んだ。

「同期で飲んでた時かなー。工藤くんと仲良い男子が、こいつ、あまりにも浮いた話がないから誰か紹介してあげてって言ってきて。
工藤くん本人はあんまり乗り気じゃなさそうだったんだけど、雰囲気壊すのも悪いなって思ったんじゃない?じゃあ若林のイチオシの子紹介してって言ってきて。
その感じがなんか透子っぽいなって思っちゃったんだよね。その場の空気読んで、ちょっと無理するところとか。
実際私が紹介してもいいかって話した時、透子も構えてたでしょ?
お互いそこまで乗り気じゃないんなら、本人たちで完結するだろうと思ったし、そもそも会ったりせずに終わるのかなと思ってたんだけど…予想外の展開すぎてびっくりしてる」

何も包み隠さずに言ってくれるその話っぷりが清々しかった。
一気に話して喉が渇いたのか、話し終わるといい音を立てて喉を鳴らしながらビールを流し込む彼女。

「そっかー、雅也くんも最初は構えてたんだね。常に飄々としてるから、どんなスタンスで私と会おうってなったのか全然わかんなかったんだよね」

「確かに。何考えてるのかわかりづらいよねー、工藤くん。
彼の方から透子の話は特に聞いてなかったんだけど、連絡先教えてから少しして、改めてお礼を言われたことがあったから、たぶん透子のこと気に入ったんだろうなって思ってたよ」

私のどこを見て気に入ってくれたのかはまだイマイチわからないけど、あずさに対しても私の話をしてたことを聞けてほっとした。

「そうだったんだね。私のどこがいいのか全然まだわかんないけど」

「そうなの?
逆に透子はどこがよかったの?」

言われてハッとした。どこが好きなのか言語化するのって意外と難しい。
うーんと唸って考えながらオレンジ色のチーズをつまんだ。
濃厚な風味が口の中に広がる。

「あ。最初の印象は美味しそうに食べたり飲んだりする人だなって。
私と同じペースでご飯もお酒も楽しめるのが心地よくて」

想定していなかった返答だったんだろうか。あずさがキョトンとした顔でこちらの顔をまじまじと見た。

「何その可愛い理由。
ていうか、工藤くんに対してあんまりそんなイメージなかったわ。
会社の飲み会だと気を遣ってお酒飲む量も控えてるのかな?」

先日、一緒に食事する人によって食べられる量が全然違うと話していたのを思い出して、一人で勝手ににやけてしまった。

「何にやけてるのよ」

「いや、別に。
仕事モードと結構ギャップがあるんだなーと思って」

にやけた口元を隠すために、グラスに残ったビールを飲み干した。

「二人がうまくいってよかった。これから楽しみだね。透子彼氏できたのってだいぶ久しぶりじゃない?」

「そうねー。もう1年以上いなかったから色々と新鮮すぎるよ」

しみじみとそう言う私を見てまた彼女がおかしそうに笑った。

「確かにね。透子、前の彼氏と別れてから社会人になったのもあってめっちゃ達観してたもんね。
むしろしばらく彼氏とかいらなさそうな余裕があったよ」

確かに。急いで彼氏が欲しいわけではなかったけど、達観してると親友にまで言われるほどこじらせていたとは…

「欲しくないわけではなかったけど、確かに急いではなかったかな。
ただ、ことの運びがスムーズすぎてまだちょっと頭がちょっとついていかないかも」

「いいじゃん、素直に喜んでおけば。付き合いたての楽しい時間が待ってるよ〜。
次は何飲む?透子が好きなもの今日は頼んで」

私よりも嬉しそうにそう言ってくれる彼女のことを、素直に可愛いと思った。

「ありがと。そしたらもう一杯ビールにしようかな」

「了解」

すかさずオーダーしてくれる気の利くところもさすがだった。