16時45分。
日曜日の渋谷の駅前の人混みに少し人酔いしながら、スクランブル交差点を抜けて西口方面へ。
桜丘の坂の途中にあるダイニングバーでビールをお先に一口いただいて、友達の到着を待った。
「お待たせ!」
店員の「いらっしゃいませ」の声が聞こえた直後、聞き慣れた高い声が聞こえてきた。
「あずさ!久しぶり。タイミングよく会えてよかった」
つられて自分の声も少しだけ高くなる。
彼女は綺麗に並んだ白い歯を見てせニコッと笑うと、私の前の席に座って長い脚を組んでみせた。
タイトなTシャツとスキニージーンズ。
黒くて長い綺麗な髪は高めの位置で結われていて、はっきりした顔立ちを際立てている。
活発な彼女の性格が見た目にもよく現れていた。
目の前に座る友達は、若林あずさ。
私の大学時代からの親友で、第二の私の名前は勝手に彼女から借りたものだった。
お互いあまり仕事の話はしないけど、雅也くんと同じ銀行の支店でバリバリ営業しているらしい。
親友の名前なのに、自分の名前を呼んでるような気がして、なぜか違和感を覚えた。
「お疲れ〜!久しぶりだね、お祝いの乾杯しないと。
すみません、私も生ビールください。
あとキノコのアヒージョとローストビーフとチーズの盛り合わせもお願いします」
数年間一緒にいると食の好みも近付くのだろうか。
彼女の料理のチョイスは全部私の好きなものだった。
「あ、お腹空いてたから食べたいもの勝手に頼んじゃった。
透子も何かあれば追加で頼んで!今日は私が奢るよ」
「いいの?じゃあお言葉に甘えようかな。
けどフードは大丈夫、全部食べたいものだったから」
「そうだよね、だいたい好みかぶってるもんなー。男以外は」
そう言って気持ちよく彼女がケタケタ笑ったタイミングでビールが届いた。
乾杯を済ますと、早速あずさの質問攻めが始まる。
「改めておめでとう!
工藤くん、デートの時だとどんな感じなの?」
首をかしげながらニヤニヤと訊ねる彼女。
こう冷やかされるのはどうも慣れてなくて、笑顔を作ろうにもぎこちなくなってしまう。
極力落ち着いて声を出した。
「仕事の時が想像できないくらいゆるふわだよ。
けどちゃんと私のこと気遣ってくれて、いかにもモテそうだなーってかんじ。それにしてもだいぶマイペースだけどね」
その返答を聞くと勢いよく吹き出す彼女。
私が仲良くなる子って、よく笑う人が多いなと思った。


