703と書かれたドアの鍵を開けると彼が私を先に中に入れてくれた。
玄関には綺麗に揃えられた革靴とスニーカー。
「おじゃまします」
遠慮がちに呟いて、一日中酷使したハイヒールを脱いでから綺麗に揃えた。
「お行儀いいね。スリッパ出てるの使って。奥の部屋までどうぞ」
当たり前と思ってした私の行動を見て、彼がやっと微笑んでくれて少しほっとする。
入り口からすぐのキッチンは料理をしている形跡はなく、シンクにコーヒーカップが置かれただけだった。
リビングのドアを開くと、至ってシンプルな男の人の部屋らしい空間が広がっていた。
雑誌が置かれたテーブルとソファ、大きめのテレビにベッド、中でも目を引いたのが有名ブランドのオーディオプレイヤー。
かすかにムスクのルームフレグランスの香りがする。
男の子の部屋に遊びに来るの、すごく久しぶり。
「ソファ座ってて」
どこにいればいいのか戸惑う私にそう声をかけてくれたので、遠慮がちにアイボリーの二人がけソファの端に腰掛けた。
目の前の壁掛け時計は、21時半を指している。
ライブが終わってからの1時間半をふりかえると、とてつもなく過ぎるのが遅かった。


