『次は中目黒』
車内のアナウンスとともに、緊張がさらに高まった。
はやく二人になりたい気持ちと、彼の真意を知るのが怖い気持ちで急に焦りだす。
私の鼓動の高鳴りに反して、電車の速度は徐々に落ちていく。
彼の方はというと、落ち着いた様子で優しく手を引き、ドアが開くと電車の外へ私を連れ出した。
駅のホームに群がる飲み会帰りの若者の会話、山手通りを走る車の音、普段なら環境音として気にも止めない雑音が妙に耳障りだ。
改札を抜けて線路沿いの道を歩き、人混みが落ち着いたところで彼が口を開いた。
「もうここからはすぐだから。
うちにビールとワインならあるけど何か買ってく?」
「いや、大丈夫」
酔った勢いで冷静な判断ができなくなるのは良くないだろう。
彼があまりにもスムーズにそんなセリフを言うから、構えるあまりぶっきらぼうな返事になってしまった。
特に会話はせず、ゆっくりとしたペースで住宅街に入る。
5分ほど歩いて、綺麗なリノベーションマンションの前で足を止めた。
「お疲れ様。入って」
いいところに住んでるな、と思ったのは口に出さずに大人しく返事だけした。
手慣れた手つきでオートロックを解除する姿を見て、緊張の域を超えてこの状況を俯瞰視する自分がいた。
今の私はきっと感情が読めない顔をしてるし、雅也くんもまた何を考えているのか分からない顔をしている。
彼も彼で緊張してたりするんだろうか。
いつもの子供のような笑顔とは違って、男らしい顔つきをしていた。


