私の返事を聞くと、こわばった彼の表情が一気に緩んだ。
「ありがとう、嬉しい。
お酒はそれなりにあるから、音楽聴きながらゆっくり飲もう」
私に気を遣いつつも、自分のペースに持っていくのが上手い人だと思った。
駆け引きに慣れているんだろうか、断らないと分かっていてそんな提案をしてくるならずるい人。
「うん。どんなお家か楽しみ」
緊張が伝わらないように、極力明るく振る舞った。
「狭い部屋だし、部屋着脱ぎっぱなしだけど許して」
「全然、気にしない」
再び手を繋いでゆっくり駅に向かい、人の少ない電車に乗り込む。
こういう時、何を話したらいいんだろう。
電光掲示板をぼんやり眺めながら、頭の中を整理しようにも流れに身をまかすという結論しかでてこなかった。


