part-time lover



外に出ると、雨が降っていたことを忘れるほど爽やかな夜風が吹いていた。
先ほどのように隣に並んで海沿いを歩く。

昼間の海もいいけど、この港町にはやっぱり夜の海の方が似合うな。
豪華に輝くクルーザーの光も、波の音も、遠くから聞こえるはしゃぐ人たちの声も、今の自分の気持ちを落ち着けるには全てちょうどいい。

「今日はありがとう。いや、昨日もか。
透子ちゃんといると本当にあっという間に時間が過ぎちゃうな」

急に足を止めたかと思ったら、こちらの方を真っ直ぐ見て、珍しく真剣な顔でそんなことを言ったから背筋が伸びてしまった。

「こちらこそ」

他にも伝えたいことはたくさんあったけど、うまく言葉にできなくて、何となく気恥ずかしい沈黙が流れた。

「もし嫌じゃなければなんだけど、うちで飲み直さない?落ち着いてもう少し一緒に過ごしたいなと思って」

慎重に言葉を選んだ様子で、少し気まずそうに彼が口走った。

これはどっちだろう。
それなりに色んな経験をしてきたから、ちゃんと付き合うならその前に家に上がり込むのはあまり良くないこわとは分かってはいるけど。

正直になったら、私もこの人とまだ一緒にいたいと思う気持ちが強かった。

「うん。じゃあお邪魔してもいい?まだ終電まで時間も余裕だし」

即答して軽い女と思われたくないので、少し間を空けてから、きちんと帰る意思も示して承諾の返事をした。
これでいいのかな。
この場を気まずくさせたくないことを優先して選択した回答だったけど、最適な物なのかはわからなかった。