会話が落ち着いたタイミングで、ちょうどよく食事が終わった。

「美味しかった〜お腹いっぱい」

「お腹が満たされてよかった。一回出ようか」

彼の言葉を合図に、店を出ると雨脚は少し弱まっていた。
先ほど同様大きな傘の下に招き入れてもらい、ゆっくりした歩幅で歩き出す。

「これくらいの雨なら軽くお散歩でもする?」

「うん、全然歩ける!雅也くんのおすすめのお散歩コース連れてって」

「了解」

足場が悪いところを避けて、私の歩幅に合わせて、彼の心遣いが伝わってきて嬉しかった。
傘に落ちて弾ける雨音が気持ちいいくらいだ。

中華街から元町に抜けると、街の雰囲気が一気にガラッと変わった。
派手でごちゃついたチャイナタウンもいいけど、洗練された白い街並みが落ち着く。
昔からある喫茶店やアパレルショップなどを横目に見ながら歩くだけで十分楽しい。

ましてや隣に雅也くんがいるんだから尚更。雨の横浜も悪くないな、なんて単純な感想が頭の中に浮かんだ。

元町から海辺に向かい、山下公園に差し掛かる頃、雨がさらに弱まり晴れ間が見えてきた。


「あ、晴れてきた」

「よかった。雨の中歩かせるの申し訳ないと思ってたんだよねー。俺晴れ男かも」

傘を畳みながら彼が嬉しそうにつぶやいた。
この子供っぽい笑顔にいちいち癒されてしまう。

ふと視線を下に向けると、彼のパンツの裾が濡れていることに気づいた。

「濡れないように気を遣ってくれてありがとう。雨のお散歩も楽しかったよ。けどごめん、雅也くんの方が足元冷たいでしょ」

「あ、全然大丈夫。
もう雨上がったし、歩いてれば乾くでしょ」

大雑把な返しに思わず笑ってしまった。
相手に気を遣わせないのが上手な人だな。

「じゃあもうちょっとお散歩しよ。山下公園寄り道したいな」

たまにはいいだろうと思い、自分から彼の手を取って歩き始めた。

「あ、そしたらコンビニでビール買って歩きながらいかない?」

「それ最高」

すっかり雨が上がり、気温も徐々に上がっていた。
一番日が高い時間帯、海を眺めながら外飲みには絶好のタイミングだ。
彼の提案はいちいち私のことをワクワクさせてくれるから好き。