part-time lover



彼からビールのたくさん入ったビニール袋を受け取って、2本だけテーブルの上に置き、残りを物の少ない冷蔵庫に入れたあと、グラスを二つ持って彼の元へ戻った。

「グラスまでありがとう」

お互いに注ぎ合い、グラスを控えめにぶつけた。

「透子ちゃんの好きな曲流して」

潤んだ瞳に少しだけ赤らんだ頬の顔の彼が甘えるように言ってきた。

こういう時、何が聴きたいかな。

CDの棚を漁って、私が生まれるずっと前のジャズアーティストの一枚を選んだ。

聴き慣れた優しいピアノのコードが流れたことを確認して、席に戻った。

「渋い曲知ってるね。俺でも世代じゃないのに。処女航海だっけ?」

「そうです。陽さんも詳しいですね。
ジャズは結構好きで、高校生の時に名盤って言われるものは結構聴きあさってたんです」

ピアノとドラムとベースが作る緩やかな波に揺られているような感覚。そこに加わるトランペットとテナーサックスの旋律が心地いい。

「すごいね、かっこいい。
女子高生時代の透子ちゃんも見てみたかったな」

「いやいや、特に部活も勉強も熱が入るようなタイプじゃなかったし、音楽を聴くくらいしかすることなくて。
全然キラキラした高校生活は送ってなかったな」

今思い出してもつまらない女子高生だったと思う。

「なんか透子ちゃんらしいかも」

私の話を聴いてクスッと彼が笑った。

「根暗そうに見えますよね〜」

「いやいやそういう意味じゃなくて。
その当時から大人っぽい子だったんだろうなって。同年代の男子とか相手にしなさそうだもん」

「たしかに、そういうのはなかったですね。
彼氏もいなかったし」

頭の奥底に沈めておいた苦い記憶が蘇ってきた。
思春期ということもあり周りの目を気にしすぎるあまり、何かにはしゃいだり、自分の感情を表に出すのが今以上に苦手な子だったな。

「そうなの?
モテたけど相手にしたいと思える人がいなかったとか」

「そもそも私女子校だったんで男の子との接点がなかったんですよね」

「なるほど、なんか納得。達観した透子ちゃんのベースはその頃からあるのかな」

「そうかもしれないですね。彼氏はいなかったけどこっそり予備校の先生と遊んでたり」

この人にならどんな過去を晒したところでも構わないだろうと思い、今まで誰にも話したことのない若かりし頃の秘密をさらっと打ち明けてしまった。

「なにそれ、そんなこと本当にあるんだ!」

興味深そうに彼が体を少し前のめりにした。

「バイトの大学生の先生ですけど。
最初はよく気にかけてくれるなと思う程度だったけど、ある日さりげなくメールアドレス渡されて。
興味本位で連絡をとったのがきっかけでした。
好きとか嫌いとか、そういう自分の気持ちもわからなかったので何となく都合がつく時に会ってって関係が続いて。
今思うと危ない橋渡りすぎですよね」

我ながら怖いもの知らずすぎて自嘲げに話すしかなかった。

「透子ちゃんその歳にして経験豊富すぎるよ…」

一呼吸置いてそう呟いた後、衝撃を緩和させるためなのか、陽さんがグッとビールを飲み込んだ。グラスが空になったことを確認してすかさず注ぎ足す。

「ありがとう。透子ちゃんもどうぞ」

そう言われたので反射でグラスを空にして彼に差し出した。
綺麗な金色の液体がいい音を立てて注がれる。