「この後どうしようか、透子ちゃんはどこか行きたいところある?」
勢いが衰えることなく、いいペースで喉を鳴らした後陽さんが口を開いた。
「せっかくなら陽さんが普段できないことしたいですよね」
「そこまで気を遣ってくれてありがとう。そうだねー、そしたら酔ったついでに言うから全然無理なら断ってくれていいんだけど、透子ちゃんが住んでるところに行きたいかな。
普段どんなところでどんな生活してるのか見てみたい」
だいぶプライベートなお願いにどうするか一瞬悩んだけど、別に彼なら危ないことはないだろうと思う今、断る理由が見つからなかった。
「いいですよ。特に面白みのない住宅街だけど大丈夫ですか?」
「全然!ありがとう。ていうか透子ちゃんの最寄駅ってどこ?」
「駒大です」
学生時代から引っ越すのが面倒で、かれこれ6年近く世田谷区民をやっているけど、住みやすくてなかなか気に入っていた。
「いいところだね!俺、時々駒沢公園までランニングしに行ったりするよ。もしかしたらどっかですれ違ってたりしたかな」
「そうなんですか?!陽さんの趣味がランニングなのにも驚きましたし、生活テリトリーそんなに近かったことにもびっくりです」
「ほんと、ごくたまにだけどね。
しかも俺住んでるのが学芸大だからめちゃくちゃご近所さんだったんだね」
そこそこ長い付き合いだけど、プライバシーを気にして全く話をしてなかっただけに、今までなかなか危険な橋を渡っていたことに時差で気づいて自分の平和脳に少しだけ呆れてしまった。
「会う時に指定される場所で割と近いところに住んでいるのかなとは思ってましたけど、ここまで近かったんですね」
「普段なら街ですれ違っても気づかなさそうなもんだけど、それを聞いちゃったら今度から駒澤方面に行く時はドキドキしちゃうな」
「私も迂闊に東横線乗れないですよ。彼氏の家中目なんですけど」
色々と破綻していてもはや笑えてきた。
「それ俺の会社の最寄りだし」
そう言って彼も吹き出した。
「それは前から聞いてたんで、彼氏と会う時はいつも落ち着かなかったですよ。
前に久しぶりにメールくれた時、私彼氏の家にいたんですけど、仕事帰りに2人でいるとこでも見かけたのかなと思ってびっくりしましたもん」
「いやいや、それは流石にないしそれ見かけたらむしろ連絡できなかったと思うよ。
ただ何となく気になって連絡したけど、近くに透子ちゃんがいたからそうさせたのかもね」
「またポエマーみたいなこと言いますね。
飲み終わったら酔い覚ましがてら向かいますか?」
「うん、そうしましょう」
やはり予定が決まると行動が早いらしい。
お互いの缶が空になったことを確認すると、私がぼんやりしている間に陽さんはテキパキとシートや空き缶を片付けて代々木公園の駅まで歩き始めた。


